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日常のプラクシスを問うための人類学者らによるプラクシス 
(2008-07-09)
本書は若手の人類学研究者が執筆者となり、書かれたものである。有斐閣アル
マらしく、章末には「文献案内」、部末には「コラム」というふうにテキスト
として使い勝手がよさそうな構成となっている。文章はもちろんわかりやすく
書かれており、読みやすい。
全17章の4部構成である。デュルケムやボアズ以来「未開」への関心をもって
きた人類学であるが、グローバリゼーションや開発、産業化の進展で「西洋・
先進国」と対比されるような「未開」の捉え方は困難になってきた。そこで
現代社会を問うという形で、新たな人類学の視座が生まれている。
これには、人類学だけにとどまらない新たな思想の潮流が関係している。
経済は人びとの社会関係に埋め込まれているというとらえ方であったり、普遍
的知識が具体的(状況依存的)知識に対して優位であるというとらえ方への批
判であったり、慣習や制度あるいはアイデンティティが「実践」を通した相互
交渉のなかで作られるという見方であったりというように、社会科学の分野に
おいては、「合理化の進展」としてとらえたのではこぼれ落ちてしまう近代社
会あるいは現代社会の側面に注目が集まっている。そういった流れのなかに本
書に掲載された各研究は位置付けられるだろう。
章ごとに執筆者の問題関心とフィールドワークによる質的なデータの提示、そ
して章の最後にはまとめと今後の研究課題が述べられている。各章12〜15ペー
ジぐらいで簡潔にまとめられているので、目次をみて気になったものから読む
のもいいかもしれない。
本書で扱われている内容や問題関心は、人類学に並行して社会学、教育学、経
営学、認知心理学といろいろな学問領域で語られているので、人類学に興味を
もつ人でなくとも参考になる一冊になっている。
同様の関心をもって書かれた専門書は先行していくつかでているので、参考ま
でに挙げておく。
○田辺繁治・松田素二編,2002『日常的実践のエスノグラフィ』世界思想社.
○茂呂雄二編,2001,『実践のエスノグラフィ』金子書房.
ニュータイプ人類学 
(2005-11-17)
人類学の最も新しい知的システムの一番おもしろい部分を紹介する本。エキゾチックな「未開社会」や「異文化」における人間の解釈学から、科学技術や無数の情報が日常生活のすみずみにまで浸透した「現代社会」のリアリティを解剖することに目的の中心を移行しはじめたこの学問の現在が、主に若手の研究者(のタマゴ?)たちの刺激的な取り組みと試行錯誤を通して多様に提示されている。
災害対策、工業、IT社会、精神医療、ケア、葬儀産業、観光、開発、学習、教育と、扱われるテーマは論者の潜入するフィールドごとにヴァライティ豊かだが、めざすところはおおまかに一致している。世界を色々なかたちで認知する人間たちと、彼らをとりまく組織、そして複数の制度(法・政治・経済など)のからまりあいを解きほぐし、だが、解きほぐしたあとで再びその中核にいる人間の全体性を徹底して考察することである。研究対象は新鮮でありながらも、まさにこの「全体性」に着目し執着するという点において、過去の人類学との確かな連続性を保持しているわけである。
また、どの研究者も、自分の研究成果が世の中の役に立つことを強く願っていることがよく見てとれる。ペダンティックなガクモン論議などは少しも行っていない。あくまでも実用的(プラクティカル)な人類学に情熱をそそいでいる。だから、いわゆる文化(社会)人類学に関心のあまりない人も、すごく参考にできるような考察が随所にちりばめられている。この本の読書により、現代の人類として生きる私たちの知的な活動にとって重要な見識の諸相を、きっと垣間見ることができるだろう。