Anil's Ghost (Vintage International)
Michael Ondaatje Vintage Books
グループ:Book /ランキング:4000
価格:¥ 1,628
発売日:2001-04-24 /通常10~14日以内に発送
レビュー(Amazon.co.jp)
ブッカー賞を受賞した第3作『The English Patient』(邦題『イギリス人の患者』)で、オンダーチェは戦争中の愛と裏切りを描いた。4作目となる『Anil's Ghost』の舞台もまた戦時下だ。1980年代から90年代にかけてスリランカを引き裂いた血みどろの内戦。しかしこの戦争が第二次世界大戦と違うのは、敵が特定しにくい点だ。主人公のアニル・ティセラはスリランカに生まれ、18歳のとき故郷を後にした。そして15年後、国際人権保護団体の調査員として、再びこの地に戻ってくる。法廷人類学者である彼女は、中央アメリカの戦場でグアテマラの悲惨な戦争の犠牲者たちを掘り起こすという作業も経験していた。今回のスリランカ訪問も、同様の使命によるものである。しかし間もなく彼女は、前回の任務と今回のそれとの間には徹底的な違いがあることを知るのだった。
「死体はいまや毎週のように発見されている。殺戮がもっとも激しかったのは88年と89年。しかしもちろん、それはずっと以前から起こっていたことだ。あらゆる組織が殺戮を行い、証拠を隠滅した。あらゆる立場の組織が。これは非公式な戦争である。だれも敵を明らかにしたくはないのだ。だから秘密部隊が動く。ここは中央アメリカとは違っていた。殺人を行っているのは政府だけではないのだ」
そのような状況下では、いったい誰を信じたらよのか?アニルにはサラス・ディヤセナというスリランカ人の考古学者の同僚がいるが、彼を取り巻く政治的背景もまた、闇に包まれていた。2人は協力して、政府絡みの殺人の証拠を追う。がい骨となった死体の1つを「セーラー」と名づけ、その死を巡る数々の事件を調査していく。しかし調査が進むにつれ、アニルはしだいに政治と妄想と悲劇の罠に陥っていくのだった。
前作同様、物語は戦時下では常にある、個人と政治とが交錯する領域を描出している。しかし今回、そのスタイルはより直接的で、詩的叙情性は抑えられている。頻繁な時間の移動や、ほとんど幻想的でさえあるイメージ描写、登場人物の過去が徐々に現在と結びついていく手法など、オンダーチェ文学の特徴の多くはここでも健在だが、文体はより読みやすいものになっている。これは、著者が自らの詩人としての特質を忘れたということではない。創造力を喚起する巧妙な描写はいたるところにある。たとえば、1日の終わりに水の中にたたずむアニルの姿。「白い花びらに爪先をうずめ、その日のできごとや事件を一枚一枚脱ぎ捨てながら、彼女は腕を組む。それらを自分の中から追い出すように」。『Anil's Ghost』でマイケル・オンダーチェは、内戦における大量殺戮を残酷なまでに徹底追究しつつ、同時に人間としてのアイデンティティー、忠誠、過去が現在に投げかける濃い影などについて静かに深く考察している。
カスタマーレビュー
おすすめ度:
美しい文章で語られる悲しい物語 
(2007-04-28)
かつて国を出て、ヨーロッパで研究をしていたアニルは、人権団体の要請によって、スリランカへ戻る。虐殺された人たちの身元を調べるという仕事を引き受けて。
過去の思い出に満ちた故国は内戦で、想像を絶する悲劇に満ちていた。がい骨となった死体の1つを「セーラー」と名づけ、この死体の身元を探し求める。
アニルのこれまでの人生、がい骨の「セーラー」の人生、アニルが出会う人々の人生、そしてスリランカの長い歴史、これらに流れているそれぞれ異なる時間が重なりあって、美しい文章で語られながら、悲しい物語は進む。
ストーリーは読者を引きつけるし、英語は読みやすい。
悲しく、美しく、忘れ難く、不思議な本。 
(2003-02-06)
English Patient でもそうだったように、1ページ目から漂うこのずっしりと重い悲しみはこの著者の本領発揮なのでしょうか。そして、やはりEnglish Patientでもそうだったように、民族全体の苦しみをじっくりと目撃させられる女主人公は強烈な自我と個性を持って恋に挑みます。本筋とは一見関係ないような彼女の恋物語はなぜ挿入されるのか、政治的迫害をテーマに、出口のない民族対立を描きながら、一人一人の心の強さと奔放さに人類の希望の光を見出しているのかも知れません。この著者の作品は、パッチワークのようにあちこちから紡がれて、全体像が完成すると、一言では名状しがたい情感を残します。職人芸です。