The Atlantic Sound
Caryl Phillips Vintage
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価格:¥ 1,170
発売日:2001-11-01 /只今品切れ中
レビュー(Amazon.co.jp)
この本を手にして裏側のフラップを開くと、鋭い目をしたハンサムな男性が上目使いにこちらを見ている。写真の下に、作家は「西インド諸島セント・キッツに生まれた」とある。さっそく地図を広げたが見つからない。ブリタニカの地図でようやく見つけたその島は、リーウォード諸島の1つで、アンティーガの近くにあった。
カリル・フィリップスはセントキッツで生まれてすぐに、母親に抱かれて大西洋を船で渡る。1958年のことだ。長旅の末にたどり着いた英国で、英国式の教育を受けて作家になった彼は、いま、両親と同じようにセントキッツから貨物船に乗り、大西洋を越える旅に出る。それがこの本のプロローグである。
一風変わったトラベルエッセイとして始まるこの本は、しかし、第1章の「故郷(ホーム)を発って」で時代が19世紀末へ、舞台がアフリカ西海岸のゴールドコーストへ飛ぶ。だまし取られた父親の船の代金を返済させるべく主人公オカンシーが単身リバプールへ向かうこの章は、作家の手になるフィクションがメインだ。
さらに第2章「本国(ホーム)行きの旅」でフィリップスは飛行機内の旅人となって英国からガーナへ飛び、第3章「故郷」では米国サウスカロライナ州チャールストンへと舞台が移る。各章のタイトルを見てもわかるように、この作家は実際に育った英国にも、アフリカ大陸にも、現在住んでいるアメリカ大陸にも「ホーム」ということばを使う。なぜか?
最近「ブラック・ディアスポラ」ということばを目にするが、この本のテーマがまさにそれだ。奴隷貿易によって莫大な富を得た港町リバプール、プランテーションでサトウキビを刈らされた黒人たち、アフリカのいまを生きる人たち、世界各地に散らばって生きるアフリカ系の人たち。時間と空間をピンで留めて、点と点の間の空白を、書くことによって埋めようとする作家カリル・フィリップスを「われわれ西側社会が忘れたがっていることを書く作家」と評したのはJ・M・クッツェーである。(森 望)