カスタマーレビュー
おすすめ度:
世界の貧困と戦う優れた米経済学者の支援実績に基づく主張 
(2008-10-13)
世界から貧困層を無くそうという筆者の人道主義的熱意と、示されている経済データの充実度と、マクロ経済学の知識を問題国の火事場で果敢に適用した勇気と、粘り強く先進国から支援を引き出した折衝力に敬意を表さざるを得ない本だ。内容も翻訳も素晴らしい。
若くして得たHarvard大学終身教授の地位や、Columbia大学Earth Institute所長の学問的地位にも拘らず、筆者は現地主義を貫き、ボリビアの経済危機を救い、ポーランドの自由経済化による発展を助けた。ロシアの自由化後の経済政策を提言したが国内保守派の抵抗と米国の敵視で実らなかった。中国・インドにも足を運び経済の転換期の経緯に深く関わり、歴史観を踏まえた鋭い見識を述べている。アフリカ諸国、特にケニアに注力して貧困の原因を探求しその撲滅に尽力している。これら各国での支援活動の記述がドラマのように面白い。
どうすれば世界から貧困を無くせるかに関して、現実的で具体的な処方箋を書いている。よくありがちな理想論・空想論ではない。貧困を撲滅するためには貧困国の自助努力だけでは無理で、IMF・世界銀行を含む先進国側の支援が必須であるにも拘らず、先進国側は充分な役割を果たしていないとする。貧困の撲滅こそ、軍事力だけでは実現できない先進国の安全保障に役立つと強調する。
支援活動も超人的だが、それに基づく主張も説得力がある。
イースタリー著『エコノミスト 南の貧困と闘う』と併せて読もう 
(2007-09-12)
貧困問題や経済開発に関心のある人にとっての必読の書で、出版された意義は大きいと
思います。しかしながら、理想主義に過ぎるという点は否定できないでしょう
(同時にそこが「売り」でもあるのですが)。
先進国が債務を帳消しにし、援助額を増やせば極度の貧困は終わらせられる、というのが
主な主張であり、先進国(主にアメリカ)の援助額の少なさと世銀・IMF等の援助政策を
批判しています。イースタリーも『エコノミスト 南の貧困と闘う』で世銀の政策を批判
していますが、その理由と処方箋がサックスの主張とは対立関係にあり、イースタリーを
併せて読むのと読まないのでは読後の感想に大きな違いがでることと思います。
世銀とIMFを同じミッションを持った機関であるかのように論じているところが
気になったのと、論点に対して本のボリュームがありすぎると感じた(ボリビア、
ポーランドのケーススタディは自分の業績の自慢話風)ので星1つ減点としました。
地球上の貧困をなくすためには、われわれ一人一人が意識して行動していくことが、何よりも大切であると感じさせてくれる 
(2007-07-29)
本書は、ハーバード大学で、わずか29歳で博士号を取得した著者が、ボリビアのハイパーインフレに立ち向かって、それを見事に解決したことをきっかけに、貧困問題に関わっていく物語である。本書を通じて、地球上の貧困をなくすためには、われわれ一人一人が意識して行動していくことが、何よりも大切であると感じさせてくれる。さらに著者は、様々な現場を歩いてきた体験から、通説とは異なる対処法をいくつも示してくれる。
例えば、貧困は、大国や多国籍企業が発展途上国の人々から経済的に搾取してきたことが原因とされている通説に異論を挟む。たとえば、バングラデシュの衣料工場の現場の労働環境は劣悪ではあるが、それでも女性たちの意識の変化や経済成長のきっかけになりつつあるのだとしている。
また、長い歴史からみて人類の経済発展の度合いが異なっていたために、相対的に貧しい国が生まれたのだとも言う。つまり、貧困な国も経済成長はしているのだが、先進国に比べての成長度合いが異なっていたために相対的に貧困になったのだとする。
とはいえ、著者は911以降のアメリカには徹底的に反対し、第二次世界大戦後の第一次大戦の反省から行われたマーシャルプランこそ、結果的に世界に平和と安定をもたらすものと主張する。
そして、今のODAをGNPのわずかだけ増やすだけで、貧困問題も、人口問題も解決するのだと結論づけている。
著者の体験に裏打ちされた提言がなされているだけに、実に説得力がある。
副題にもあるように、われわれが力を合わせて行動すれば、2025年までに必ず貧困は終焉するのではないかと感じた。
iPod nano (PRODUCT) RED Special Editionのとりもつ本 
(2007-05-20)
iPod nano (PRODUCT) RED Special Editionで、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」を知った。そこから、ボノ(U2)の名前が記憶に残り、彼が序文を書いていることに注意を引かれて、本書を手にした。
たいへんまっとうな内容である。ボリビア、ポーランド、ロシア、中国、インド、アフリカ、それぞれの国の激変をサックスと一緒に体験し、2025年の貧困終焉が不可能ではないという気持ちになる。
貧困を診断し、治療する 
(2007-04-17)
著者が自ら国連に参画して練り上げたミレニアム開発目標に、自らアフリカに乗り込んで取り組む貧困削減プロジェクト。著者は決して、象牙の塔に篭って理想論を垂れ流す世捨て人ではありません。現場の実態と経済理論を踏まえ、病んだ経済を治療するための処方箋を提示する経済のプロフェッショナルです。
著者は、医学と経済学を比較し、経済学を学ぶ者に実践的な知識が欠けているとした上で、医師が患者を診断するように経済を診断するためのチェックリストを示します。そして、医師が患者を治療するように、それぞれの症状に沿った処方箋を提示すべきとし、これを「臨床経済学」と名づけています。
著者は、ボリビアのハイパーインフレーションを抑え、ポーランドの経済改革を成功に導きました。しかし、ロシアではポーランドと同じ手法が通用せず、経済理論で説明できない現場の実態に即した処方箋の必要性に気づきます。「貧困への処方箋」は、こうした経験に即して、アフリカの現場で必要な基礎的インフラを積み上げて生み出されたものです。
一定の資金を確保した後、自律的に回復したボリビアやポーランドと異なり、今回の処方箋はアフリカ大陸全体に及び、必要な資金も事業規模も桁違いです。資金の確保、事業の確実な実施の確保、その後の維持管理。著者の思いとは裏腹に課題は山積みです。アフリカに援助をする国際機関や欧米諸国は「要請主義」ではなく、自分達の都合で援助を配分するため、アフリカ諸国は貧困削減計画を立てても、与えられた枠以上の資金を引き出すことができません。
そのような厳しい現実に正論を貫いて向き合う姿勢には好感が持てますが、それで克服できるかどうか。例えば、いきなり大陸全体の計画を示すのではなくて、国ごと、地域ごとにもっと対象を絞って提案した方がいいのではないかと思いました。