カスタマーレビュー
おすすめ度:
50年前の作とは思えない。現代を読むごとし 
(2008-08-20)
ここに登場する病人の中に、肉体的な病でなく、
トラウマや神経症が原因と思われるような
心因性の症状をかかえた人物が、幾人か登場します。
どれも最近になって広く身近に、問題視されるようになったものばかり。
これが50年前の小説だろうか、と驚きました。慧眼です。
本屋や学校、図書館で、推薦図書として、よく見かける書名ですが、
なんとなく、江戸時代の貧乏な診療所の、風変わりな医者の人情話、
くらいに軽く考えて、読まずに流してきました。間違いでした。
そういう人も多いかと思いますが、ぜひご一読を。
決して、単純な娯楽小説の、お気楽な理想主義ではありません。
著者の複雑な人間観が、ここにもあります。
人間が好きなのに、人間を信用しきれない。
だからこそ、心がゆれる。
矛盾する両極を渡る振り子の振幅。
その間から、こぼれ落ちる物語の代表作が本著です。
読みやすいが、読みが応えあり、そして考えさせてくれる。 
(2007-12-19)
良き医師の典型として多くの日本人がイメージする人物、それが赤ひげである。しかし、実際に本書を読んだ人は多くはないのではないだろうか? 赤ひげは著者が練り上げた架空の人物であるのだが、その行動原理や行動規範はまさしく「医師たるべき人」として申し分ない。いやむしろ、架空の人物だからこそ、医師にふさわしい行動をとらせることが出来たのかも知れない。その意味で、「単なるフィクション」として本作を見ることも充分に可能である。しかし、人間描写のプロであり、また「人々が望むもの」を見極めるプロである職業作家が描くこの人物は、人々が求める「医師たるべき人」のモデル例である‥との解釈も可能である。
ある種、高圧的で強権的な赤ひげであるが、その医師としての行動には私心がない。ただひたすら、合理的な治療家であろうとのみ思考が集約している。しかし本書を読む人に、是非とも想象してもらいたい。赤ひげのような人間性の形成が、果たして現実問題として可能なのかどうかを。読者と同じ人間として、赤ひげのような人間が存在しえるのか‥ということを、考えて戴きたいのである。そしてそれが可能だとして、ではどういう社会制度が赤ひげのような医師の活躍を促進するのか‥ということも同時に想象して戴きたい。
架空の人物である赤ひげと対比して実際の医師を批判することは溜飲の下がることかもしれず、それはそれでやっていただいて全く構わないのだが、本書を読んだことを良ききっかけとして、もう一歩、建設的な想象をしていただければ、と思う。恐らく、著者、山本周五郎氏の求めていたのは、そういう事だったのではないだろうか?本作の設定が、時代こそ違え、現在の医療情勢と非常に似通っていることを考えると、私にはそのように思えるのである。
青春小説 
(2007-10-29)
これは紛れも無く、青春小説の傑作なのです。タイトルに「赤ひげ」とあるが本書の主人公はあくまで青年医師である。赤ひげ先生は青年医師が成長していく過程で様々な影響を与え続けていく。初めは反発していた青年医師保本も赤ひげ先生の考え方、生き方に感銘し、自分の進路を見つけていく。そこには自分の受けた過去の傷をも乗り越える、強い意志が生まれるのである。つまり、青春の課程をじっくり見せられるのである。これこそ青春小説である。人間の成長過程を見ることはなんと素晴らしいことか。自分の青春と比較してしまい、卑屈になってしまうかもしれないが、そんなことはない。青春とは一人一人違うものだし、その価値も人それぞれ違うものである。恋愛しなくてもいいよ。友達いなくてもいいよ。みんなと同じことすることないんだよ。でも、本書のような青春ど真ん中の物語は、誰にでもなんらかの感動を与えてくれる。卑屈にならず、ただ感動すればよい。そんな物語です。
各短編には結末が書かれていない。みんな想像すればいいのである。自分だけの「赤ひげ診療譚」が出来上がるはずである。
山本周五郎傑作 
(2007-02-12)
自らの意思とは反し小石川養生所に派遣され、所長である赤ひげの元で働くことになった青年意志を主人公とした物語。
社会的弱者である多くの患者を前に、自らのを犠牲にし治療を行う赤ひげの姿にし、青年医師は次第にその人間性を変えていく。
特に多くの医療関係に従事する人には読んでほしい、山本周五郎を代表する感動の一作だ。
周五郎の作品、その人情どっぷりの作風を「まるで濃い味噌汁を飲まされているようだ」と比喩する人々の声を少なからず聞いた事がある。
私は反論したい。本書にある赤ひげの言葉に耳を傾けてほしい。そうすれば周五郎の人間に対する強い愛情を必ず感じ取れるはずだ。
江戸時代の心療内科 
(2006-09-09)
幕府の御番医になるべくエリート街道を進んでいたが、ひょんなことから小石川養生所の赤ひげ先生の見習医になった本書の主人公の保本登。
養生所の多くの患者の診療を重ねるごとに医学的な知識だけでは解決できない問題があることに気付き始める。現代でいう診療内科的診療を行う赤ひげ先生に最初は反抗をするが最終的には傾倒してゆく。
ここに出てくる患者たちは皆一寸だけトラウマがあり、通常の診療では解決できない問題を抱えている。そして保本登自身、自身が持っていたトラウマを克服してゆく。読んでいてほのぼのとするストーリーです。