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火花―北条民雄の生涯 (角川文庫)
高山 文彦
角川書店

グループ:Book /ランキング:24930
価格:¥ 900
発売日:2003-06 /通常24時間以内に発送

カスタマーレビュー
おすすめ度:
いのちの初夜とは、一味違った作者像が見れる  (2007-05-02)
命の初夜の北条に対して思い入れが深いと、
施設に執筆用の空間を確保してしまうなど、
施設の暗さが描かれていない部分は、どうもしっくりこないが
一人のハンセン病の患者の障害を追ったという捕らえ方で本書を読むと
大変興味深く読むことが出来る。
高山文彦のフィールドワークしながらの人物記はいつもながら、対象者への深い愛情を
感じる。

北条の生家を訪ねたときに、いまだにその地方の村の人からハンセン病という事で
迫害され、隠され、誰一人、北条の存在について知らなかった事実は衝撃的にさえ
感じた。

文学が「人生の指針」であった時代の物語  (2004-07-18)
 関川夏央は『座談会 明治・大正文学史』(岩波現代文庫)の解説で、座談会がはじまった1950年代後半にあっては、「文学というものが日本の知識青年と知識壮年にとって生きる上での手がかりとなっていた、つまり文学がまだある種の『実用品』であった」と書いている。その関川が谷口ジローと組んで世に問うた「『坊っちゃん』の時代」五部作が、国家と個人の深刻な乖離が兆す時代の文学のあり様を描いた作品であったのに対して、高山文彦の『火花』は、文学が「人生の指針」であった時代の後半、大正期教養主義以降の「商品」(娯楽や癒しのタネではなく、社会意識や感動をもたらす実用品)としての文学が兆す様を描き切っている(北条民雄の「いのちの初夜」が掲載された『文學界』昭和11年2月号は、創刊以来の売れ行きを示し、雑誌廃刊の危機を一時免れた)。それはまた、柳田邦男が解説「いのちと響き合う言葉」で書いているように、文学の言葉が密度の濃い「生」の実存を映し出す力を失っていなかった時代の物語である。著者は本書で「文学というもの」の近代日本における輝きの実質を余すところなく叙述すると同時に、その静かな挽歌を奏でている。

じわじわと胸にくるノンフィクション  (2004-03-27)
夭折し、忘れられた天才にして被差別者の生涯をていねいに掘り起こす。こういった手法で書かれたノンフィクションはこれまでに数多く存在したことでしょう。しかし、著者・高山氏のただの凡庸な伝記に終わらせない力量・努力を感じました。

まず、叙述について。序章には心惹かれるものがあったものの、第一章から第三章までは、いくら事実を正確に記述しなくてはならないノンフィクションでも、もうちょっと感動的な叙述にできないものか、と思っていました。しかし、「第四章 わが師 川端康成」あたりから、主人公が社会から隔離された不幸から文学によって立ち直り、文壇・世間に認められていく喜びや、わずか三年半の作家生活で志半ばのうちに息絶えていく無念を、わがことのように追体験できました。
次に、歴史的背景について。ハンセン病隔離政策の歴史、主人公が寄稿した『文学界』とその周辺など、医学史、文学史の領域にかかるサブストーリーまでていねいにおさえられています。とくにハンセン病についてたいへん勉強になりました。

最後に、序章と終章とで、主人公を直接知る唯一の生存者に語らせるという構成について。著者・高山氏は、主人公の生涯を読者のわれわれに追体験させることに心血を注いでいます。しかし、最初と最後を直接の知人のことばに委ねている。追体験は現実の体験とはちがうことを自覚していらっしゃるらしいことに好感をもちました。

どうしようもない逆境でも不屈の闘志で立ち向かっていけば、報われないかもしれないが、でもまったくのむだでもない。そういうことを伝えようとする人道主義的な配慮のある作品にぼくはとても弱いので、五つ星です。


真摯な評伝。  (2003-09-28)
本書を一読してまず気付かされるのが、
川端康成のこまやかな気遣いである。
川端の書いた北条の死を巡る作品「寒風」は、
ハンセン病という当時は不治の病として恐れられた業病と闘い、
夭折した作家として北条民雄を冷静に捉えている。
決して見下ろしたりまた変にもちあげることなく。

今北条民雄と聞いてどれだけの人が知るのだろう。

それでも彼の残したわずかな作品群は時を越えて残りつづけていくことだろう。

評伝の著者高山氏の北条への熱意は、本書の読み手に直接的に揺さぶることだろう。

そして、一人でも多くの人が北条民雄文学への興味をもつことを願ってやまない。




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